傀儡の恋
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どれだけ科学が進歩しても、自然にはかなわない。
そう思わせる光景が目の前に広がっている。
「……おうち、なくなっちゃったね」
誰かがそうつぶやいたのが聞こえた。
あるいは、とラウは心の中でつぶやく。あの戦争で住むところを失ったのかもしれない。それ以外の大切なものも、だ。
「大丈夫ですよ。他のおうちに引っ越せばいいだけのことです」
マルキオが明るい声音を作りながらそう告げる。
「……あたらしいおうち、ですか?」
「えぇ。ここ以外にも何件かありますからね。とりあえず、バルトフェルドさん達がいるおうちが一番広いので、そちらに移動しましょうか」
彼はさらにそう続けた。
確かに、その方が子供達を守りやすいだろう。それに、打ち合わせも簡単になる。
問題があるとすれば、とラウは心の中でつぶやく。
自分と彼等の関係ではないだろうか。
からかわれるのはいい。もうあきらめた。だが、そこkら自分が何者であるのか、キラにばれるのだけは避けたい。
それに、ソウキスのこともある。
もっとも、それらのことを考慮しても自分は彼等について行くという選択をするだろう。
「そうですね。大切なものが落ちていないか、探してきてください。でも、危ない場所にあったなら自分でとろうとしてはいけませんよ? ラウ君かソウキスさんに頼んでください」
確かにそれが一番安全だろう。
「そうだね。それがいい」
ラウも彼の言葉に同意をする。
「探すときはカリダさんかラクスさん達と一緒に行くんだよ」
微笑みながら言葉を重ねれば、子供達は早速、走り出す。その後を女性陣が追いかけていく。
「キラ君はラウ君と一緒にデーターの処理をお願いできますか?」
後を追いかけようとしたラウ達に向かってマルキオがこう声をかけてきた。
「お二方のフォローは私が」
さらにソウキスもこう口にする。
「……頼む」
マルキオの意図が今ひとつ推測できない。だが、ここのデーターは他人の手に渡るとまずいものも多数あるというのは事実。だからだから、指示に従った方がいいだろうと判断する。
「お任せください」
言葉と共にソウキスもまた離れていく。
「何か一つぐらい、思い出の品が残っていればいいのですが」
「そうですね」
だが、それは望み薄なのではないか。周囲の惨状を見るにそう思う。それでも一縷の望みをかけている子供達には言えない。
「たとえそれが小さな貝殻一つでもあの子達には十分でしょう」
みんなで過ごした場所にあったと言うだけで、とマルキオは告げる。
「いざとなれば、写真データーだけはバルトフェルドさん達のところにバックアップがあります」
キラの小さな声が間に割って入ってきた。
「……それだけでも彼等には十分かもしれませんね」
ラウはそう言いながらうなずく。
「彼等が迎えに来る前に作業を始めましょうか」
そのまま次の行動を促すように言葉を重ねた。
「迎えに来られたら仕事になりませんね」
確かに、とキラもうなずく。
「お願いしますね」
そう言って微笑むマルキオの表情は慈愛に満ちたものだ。それが自分にも向けられているとわかった瞬間、ラウはどう反応していいのかわからなくなる。
自分はそんな視線を向けられるべき存在ではない。
それは彼も知っているはずだ。
「行こうか」
それでも、何処かそれをうれしいと思ってしまうのはなぜなのだろう。
自分の中で何かが変わり始めている。それを受け入れていいものかどうか、ラウにはまだわからなかった。